東京の銀座で「一冊の本だけを売る本屋」という斬新なコンセプトで大成功し、海外からも注目の的となっている「森岡書店」。
今回、森岡書店は深圳湾万象城内に2週間限定で出店中(6/15-30)なのですが、オープニングイベントは超満員で(というか溢れてます)ものすごい人気なのです!新華社通信を始め海外メディアからも注目され続ける森岡書店、なぜこれほどまでに注目されているのでしょうか?
その裏には世界各国で共通する、本屋の抱える課題が垣間見えます。それに対する森岡書店のアプローチは?
オーナーである森岡督行さんのトークイベントの様子をお伝えします!
目次
オープニングイベント
今回のイベントを取りまとめているのは、DREAMLABO(未来預想図) の Chief Editor 赵慧(ZHAO HUI)さん。
場所は、深圳湾万象城の3階にある「前檐书店」(YAN)内に特設スペースが設けられています。
このオープニングイベントには中国国内からたくさんのファンや関係者が詰めかけました。
この森岡書店、なぜここまで話題になっているのでしょうか?
森岡書店とは?
森岡書店は、オーナーの森岡督行さんによって2006年に茅場町の古いビルにて古書店兼ギャラリーとしてスタートました。
そこで新刊イベントを行なうと、その一冊のためにお客さんが訪れ、その時に様々なコミュニケーションが交わされ、その周りには幸せな空気が流れました。その時に「もう一冊だけの本屋でもいいかな」と思うようになったそうです。
書店が10年を迎えた時、何か新しいことをしたいと考え、(スープストック東京などを手掛けている)遠山正道さんとトークイベントで会い、融資をいただいて形にしていったとのこと。
ここで森岡さんは、遠山さんがビジネスを立ち上げる時に重視する点を深センの方々にシェアしてくださいました。
4つのポイントがあるそうです。
- やりたいこと:ビジネスを目的とせず、自分がやりたいと思えること
- 必然性:なぜそれをやりたいのか。ピンチの時に踏ん張れる「やらなければならない」理由
- 意義:自分一人で事業はできない。仲間から共感される意義はあった方がいい
- 「なかった」という価値。(オリジナルの価値):モノマネでは苦しい時に責任転嫁してしまう。自分発だからプライドを持てる。
森岡さんの場合、この4つの点全てに当てはまっていたため、スムーズに進めることができたそうです。
しかし、この新たな書店を立ち上げるには紆余曲折ありました。場所は銀座一丁目にある古いビルで、手作りの店をスタートします。しかし前日になっても棚のサイズが合わないなどのトラブルが発生、そんな時に通りすがりの人が棚を切るのを助けてくれることに。
森岡さんは、普段からお客さんとのコミュニケーションを大切にしているのだそうです。そのおかげでこのピンチの時も乗り切ることができた、とおっしゃっていました。
このブランドロゴのためにフォントも作成したそうです。
どのように本を選んでいるか?
売る本は一週間単位で変わっていきますが、例えばこのような本をセレクトしているのだそう。
石川直樹 写真集
写真家、石川直樹さんの撮る写真はエベレストや危険地帯が多く、”次がないかもしれない”写真家なのだそう。
そのような、熱量のある真剣に勝負している本を扱っているとのこと。
平井かずみ展
フラワースタイリスト 平井かずみさんの本を扱った時は、外から見ると完全な花屋になったそうです。
平井さんのInstagramはフォロワーが数万人いるそうで、平井さんがイベントを行なうとファンが遠くから集まります。
そういった点もセレクトする基準になっているとのこと。
想定外の事態も
一方で、思っていたのと違う事態が生じたことも。
例えば、「コーヒー豆の本」や、「インコの写真集」を出した時。
森岡さんの中では「あまり売れないだろう」と思っていたそうです。
しかし蓋を開けてみると、日本中からお客が来て想定外の売り上げだったそう。
根強いファンのいる本はたくさんあるようですね。
KASAI Kaoru 1968
今回、森岡さんが深センのためにセレクトした本は…
アートディレクター 葛西 薫さんの本です。
なぜこの本を選んだのでしょうか?以下、森岡さんの言葉です。
深センはIT、ビジネスの街で平均年齢も若いと聞きました。
アートディレクター 葛西薫さんは、マイナスのデザインをする方です。つまり「引いて、引いて、物の本質を反映させる」という手法を取る方です。
葛西さんの代表作は烏龍茶の広告で、その取材のために中国に何度も来たことがあります。その昔、上海でタクシー運転手と二人になった時に、持っていたテレサ・テンのカセットテープ「時の流れに身を任せ」を車の中でかけたりして一期一会を楽しむ人です。
デザインは若い人の感覚が必要です。でも葛西さんは今70歳。歳を取ると若い時には見えなかったものが見えてきます。この観点は深センの若者にも必要だと思い、この本を選びました。
モノからコトへ
森岡さんは、「物」から「事(認識・体験)」に変わりつつある、と言います。
この体験は計画されているものではなく、偶然の出会いが次につながっていく。そこには夢・希望・豊かさがあるのだそうです。
本を読む → 別の次元へ行く。
本の2次元の世界を3次元にする。そこにお客さんが入ってもらう。その体験に、時間とお金をかけてもらう。という手法を取っているのです。
利益は?
イベントではQ&Aの時間も設けられましたが、真っ先に上がったのはやはりこの質問。
参加者の中には、本屋の経営者もおられ、この点は一番気になるところのようですね。
森岡さんいわく、森岡書店で一番本が売れた時は1週間で300冊。時には一冊20万円の本が20冊売れたこともあったそうです。
でも本の利益率だけでは厳しいので、本に派生する展覧会などのイベントを必ず行なうとのこと。
例えば前述の平井かずみさんの場合は、本と一緒に花も買ってもらうようにしました。こうしたイベントを行なうと、本屋でありながら著者に対するお祝いの場となり、遠くからファンが詰めかけるのです。
また、トークイベントは料金を取っています。こうした工夫をすることにより4期連続で黒字となっています。
本×○○
森岡さんは、本との掛け合わせを行なうことによって、様々な可能性を切り開いてきました。
例えば、以下のような組み合わせです。
本×洋服
森岡さんは、「本屋さんが欲しかったシャツ」を作りました。
ポケットが広く、ペンホルダーがあり、袖がスレにくいように丈夫な作り。
そしてこのシャツ、ものすごく売れたそうです!
本×デパート
また、森岡さんは三越デパートのショーウィンドウデザインのディレクションも手がけたそうです。
ショーウィンドウ自体は4つあるのが見えますが、一つ一つが本になっているのです。一枚一枚読んでいき、合計4ページの本になる。というコンセプト。
入場料を払う世界初の書店「文喫 六本木」
去年(2018年)年末、青山ブックセンター六本木跡地にオープンして話題となった、入場料を払う書店「文喫」も、森岡さんが企画協力しました。
入場料を払う書店は世界初とのことです。
わざわざ本を開くためにお金を払う…ITが進む中で、アナログな経験が価値を生む、とおっしゃっていました。
本×ブランド
また他にも、資生堂・エルメスとのコラボレーションなど幅広いです。
深センと本屋
森岡さんは、自身の好きなガンジーの言葉を紹介しました。
今日限りだと思って生きる。
永遠だと思って夢を見る。
一瞬一瞬を充実させたい。という思いが森岡さんの根底にあるのだそうです。
深センはすごく未来的な街だ、と森岡さん。
その未来的な街の中で、「前の知識」である本屋を通して、アナログな経験を分かち合うことができます。
参加者の中から「森岡さんは勇気がありますね」とおっしゃった人がいましたが、森岡さんも「一冊の本だけを売る」という形態にした時、周りの人からそのように言われたそうです。でもそのおかげで人が来てくれたのだそう。
森岡さんは、「こちらが本を選ぶというよりも、選ばれている感じ」だと言います。「どんな人にも対等に付き合う」ことをモットーにし、書店で本を置く時にはその本の説明をできる人を必ず配置するのだそう。
深センでは、新しいものを生み出そうと挑戦している人たちがたくさんいますが、
一瞬一瞬に向き合い、人との関係を大事にし、勇気を持って一歩を踏み出す。
この森岡さんの姿勢に多くの参加者は刺激を受けました。
本屋の未来は明るい
「本屋の未来はどうなりますか?」という質問が、参加者から出されました。
森岡さんは「本屋の未来は明るい」と言います。
スマホで本を見る人は多く、本屋の役割は変わりました。でもスマホは10年後どうなっているか分かりません。一方で、本は100年後も存在します。これからは本を買うことだけではなく、本屋で買う経験が大事になるのです。
世界には本屋が必ずあります。本屋が観光の場所になります。
来場者は出版関係者・デザイナーの方が多く、質問の内容も本屋に関する将来の不安や、Amazonなどのオンラインブックストアとの共存に関するものが圧倒的に多かったです。
しかし森岡さんには今後展開していきたい新たなアイデアもあるそうで、それは本質を見ていった先に生まれるものなのかもしれないと感じました。最初から利益のみを追求した考えだとおそらく生まれないですね。
また、森岡さんは「自分の好きなこと、得意なことを続けていくと力が最大化されて、その結果"オリジナル"が見えてくる」とおっしゃっていました。
今の深セン・中国にいる若者たちに刺さる、本当に有益な講演でした。ありがとうございました!
開催期間・場所
開催期間:2019年6月15日 ー 6月30日
開催場所:深圳湾万象城前檐书店(3F)
地下鉄7号線「后海」駅から徒歩約8分(地下鉄2号線側からはもう少し距離があります)
二週間限定の展示ですので、お早めに!