【吾友コンサル】News Letter 2024/07

深セン・広東省を中心に活躍されている吾友コンサル(吾友咨询)の隔月News Letterです。

昨今の中国における若者のキャリア形成や、日中関係について考察したコラムは必見です。

私たちは何のために働くのか

吾友コンサルティング総経理  劉真(Vivian Liu)

この間、ある日系製造業の社長さんと食事をした時に、彼がふと、中国の若者たちは工場で働くのがあまり好きじゃないのではないかと質問した。

彼の質問は私に深く考えさせた。実は、世界を見渡すと、製造業に限らず、伝統的な仕事モデルのすべてが大きな課題に直面している。その根底には、インターネットの普及とソーシャルメディアの急速な発展がある。コロナ禍により、テレワーク、オンラインコラボレーションなどが急速に拡大され、勤務地が固定オフィスに限られなくなった。また、ライバーやセルフメディアマンなどの新興職業が若者の注目を集めている。

図①テレワーク

2023年に、微博(ウェイボー)が、「今の若者が就職する際に、何に注目しているか」というアンケートデータを発表した記憶がある。約1万人の新卒者のうち、半数以上(61.6%)が、就活でライバーなどの新興職業も考えると回答した。多様で柔軟な働き方、より多くのチャンス、トラフィックの収益化という強い誘惑は、モノを求める若者にとって大きな魅力がある。

図②ライブ配信

思わず深セン東門の「ライブ配信繁華街」の画面を思い出す。2023年7月以降、全国各地から大勢のライバーが夢を追って深センの東門に集まり、東門繁華街に膨大なトラフィックをもたらしている。にぎやかで混雑している東門を通るたびに、時代の移り変わりを嘆くと同時に、幾分の疑問も湧いてくる。もし若者たちが、皆ライバーやセルフメディアマンになるのを選んでいたら、人類の生存を支えている農業や製造業、および既存のサービス業がいつか完全に消滅してしまうのではないか?

図③深セン東門の「ライブ配信繁華街」

そこで、そもそも人は何のために働くのかという根本的な問いに立ち返っていく。

中国の若者たちが抱えている、「インフルエンサーの夢」は、実はある程度、現在の歪んだ現実を反映している。普通の人が、コツコツと長く働いて得られる報酬は、インフルエンサーが撮影したショート動画や、ライブでの呼び込みに及ばないかもしれない。あまりにも大きい所得の格差で、地道な働き方に魅力がなくなり、迷いや焦りを感じる人が日々に増えている。しかし、誰もがトレンドや目先の利益のために、自分の夢や今の仕事をあきらめてしまうのかと聞かれると、正直、そうとは限らないと思う。

まず、ライバーやセルフメディアマンといった新興職業であっても、「パレートの法則」を避けられない。「中国ネットパフォーマンス(ライブ配信とショート動画)業界発展報告(2022-2023)」によると、ライブ配信を主な収入源とするライバーの95.2%が月収5000人民元以下で、月収10万人民元以上のライバーは僅かの0.4%に止まっている。無理なノルマや過度なストレス、或いはそこそこの実績により、途中であきらめてしまうライバーも少数ではない。

図④深セン東門の「ライブ配信繁華街」

中国でよく知られているキャリアプランナーの古典先生によると、キャリア形成にあたって、だいたい5要素がある。即ち、「好きでやる」、「得意でやる」、「やりがいを感じるからやる」、「トレンドを追う」、「リスクに抵抗」。そのうち、「好きでやる」とは趣味をいう。「得意でやる」とは、個人の能力をいう。「やりがいを感じるからやる」とは、個人の中にある価値観を表す。「トレンドを追う」とは社会が進む方向に順応すること。また、「リスク」とは、加齢に伴う体力の低下、能力の低下、社会的役割の増加によるアンバランス状態などのリスクや、職業の制限、業界の衰退、社会の変化などのリスクを指す。「リスクに抵抗」とは、そのようなリスクにあらかじめ備えて、計画を立てておくことである。

過去一〇〇年の間に、人間のライフスタイルに天地を覆すような変化があっても、仕事を選ぶ時には、上記の5要素が依然として通用している。だからこそ、物質的に豊かな今日でさえ、相変わらず多くの有志青年が理想と抱負のために軍隊に入隊したり、教育支援や農業に従事したり、科学研究に没頭したりすることを選んでいる。製造業をはじめ、あらゆる業界では、コツコツと努力しているまじめで優秀な社員が相次いで現れている。無論、その反面、今の仕事に不満を感じても、個人の能力やリスク耐性の弱さに苦しみ、現状維持を余儀なくされたり、仕事を辞めてニートになったりする人も少なくない。

このように、個人の角度から、若者たちは、「5要素原則」に従って、仕事や働き方の将来像(キャリアビジョン)を実現するために、早めにキャリアプランを作成することをお勧めする。また、企業側からすれば、経営陣が、人材を確保するためには、いかにして働きやすく、モチベーションが上がる職場環境を整えていくかを工夫する必要があると私は考えている。

<特別寄稿> 日中関係に思うこと

内村 治

元大手会計事務所パートナー、アジア/中国地域日系サービスリーダー

一衣帯水を通しての長い交流

日本・中国の関係性についてしばしば「一衣帯水」という言葉が使われる。日本海を隔てた地理的な近接性だけでなく歴史的・文化的隣接性も含むという意味合いもあろう。一衣帯水という言葉はもともと古代中国の時代に隣国と隔てている長江を帯のように流れる一筋の狭い川を模したものと言われたのが起源のようだ。

その日本海を渡って様々な文物が古来より日本へ伝えられてきた。例えば、米や茶を代表とする様々な食文化が伝えられそれらは長い時間の中で日本的なものに変わっていった。また、中国から伝来した仏教は時の為政者にも保護されながら浸透し、現代では仏教信者でなくとも我々、日本人の生活の中に深く入り込んでいる。

同じように漢字つまり文字が金印や銅銭などで中国から紹介され、そして仏教伝来と共に書き言葉として日本語に組み入れられていった。また、漢字の音を利用して作った借字(万葉漢字)から奈良時代そして平安時代あたりに生み出された「ひらがな」と「カタカナ」が使われるようになった。

鑑真の来日

日本語の勉強

筆者は15年近い中国圏での駐在を終えた定年後の頭のトレーニングもあり数年前に一年間日本語教師養成講座に通った。何とか終了し、今はボランティアで中国の知人含めて外国人に日本語を教えたりもしている。ただし、オーストラリアや香港などのアジアに40年近く住んでいたことから残念ながら普通に使えている日本語を文法的に理解したり説明したりする能力はお寒い限りとはいえる。

文化庁によれば*¹、2022年時点で国内において日本語を学習する外国人は22万人、この内の82%の18万人がアジア地域出身者ということである。その内、中国からの日本語学習者は6万7千人と最大の比率となっている。これはアニメやマンガなどのポップカルチャーや観光などの文化的な理由があるということだろう。また、中国には3万拠点以上の日系企業*²があると言われており、その雇用機会などという実利面から日本語を学ぼうという意思が働くことも理解できる。さらに、中国本土内に目を移せば、2018年に日本語を学習する学習者は高校と大学を中心に約100万人ということである。

個人の感想としては、日本語を教えた中国人の数名もそうだし、定年以前にいた事務所で同僚だった日本語バイリンガルの皆さんの「話し」たり「書い」たりという日本語能力は総じてすばらしいものだった。これは、やはり漢字という共通の媒体を通して理解が進むのか、彼らの学習方法や姿勢が良いのかなどが理由なのだろう。

文化的共通性

自分は英語圏の資格を取り会計事務所において数十年英語ベースで仕事をした経験からの見解では、他の国の言語を学ぶということは単に言葉ができるというのでなく言葉を通じて他の文化を理解し・受け入れ、それをベースにコミュニケーションしていくというものだと考えている。隣国とはいえ政治体制も社会の仕組みも異なる二国ではあるが、中国では55もの少数民族を擁する多民族社会であり普通語という共通中国語の他に広東語や上海語など地域・地域での様々な言語を包括する多様性ある中国社会である。それに対して、日本は基本的に日本語という単一言語を話す単一民族と考えられているという違いがある。ただし、礼や智などを重んじる儒教に基づく文化的共通性もあることは事実であり、親に対して孝行を尽くし仁愛の精神をもって友人を大切にしたりと言う美風は根強いものである。

日中に望むもの

経済面では今中国における日系含む「外資の中国離れ」は残念ながら最近の流れではあるが、一衣帯水におかれた両国の間にはいくつかの課題が存在するのも事実だ。しかし、気候変動対策や高齢社会への対応、そして感染症対策など共通の課題はいくつもあり、これからは日中が胸襟を開いてこれらの課題解決に向けて合作していってほしいと切に願っている。

*¹令和4年度日本語教育実態調査報告書

*²外務省進出日系企業拠点数調査結果 2022年10月現在

直近のトピックス

2024年4月26日に、「中華人民共和国関税法」(以下、「関税法」)が正式に審議を通過し、2024年12月1日より正式に施行される。「関税法」の施行は、中国の関税徴収管理制度が「課税の法定化」へ全面的に移行することを示しており、対外貿易の発展、制度型開放の拡大、質の高い発展の推進にとって重要な意義を持っている。

同法の変化ポイントとして、

  • 法律の形で税関による課税価格、商品分類と原産地といった三大要素に対する確定権を明確にする。
  • 原産地ルールをさらに明確にする。
  • 「追納」と「追徴」の期間を3年に統一する。
  • 税額確認書制度を新たに設ける。
  • 越境電子商取引の関税源泉徴収義務者を明確にする。
  • 関税調整などの反租税回避措置を新たに設ける。

などが挙げられる。

吾友コンサルティングについて

吾友コンサルティングは中国で活躍する日本企業を対象に税務・財務・ビジネスのコンサルティングサービスを提供している会社です。みなさんの日々の課題や悩みをしっかり伺い、町医者のように親身になって的確なアドバイスを行っています。

当社の起業理念は、中国で活動する海外企業を中心にビジネスの成長を応援することです。日頃コンサルティングを通じて、多くのお客様がビジネスの小さな成功に止まらず、中国という国に向き合い、その特性などを深く理解した上でタイトに繋がろうとする姿勢を感じています。深い理解あればこそ、より大きな成功に結び付いていると思います。

皆さまへの更なる応援のために、当社総経理、Vivian Liuが業務を通じて感じたり、考えたことを記し、発信させていただくことにしました。当面、隔月です。

テーマに関し、文化・社会的な内容に加えて、適宜ビジネスの成功や失敗からの学びなど実践的な内容もカバーしていくつもりです。

また、当社と提携している会社、当社のお客様または知り合いなどにも寄稿をいただいております。

ぜひよろしくお願いいたします。

Vivian Liu 連絡先:

vivian.liu@wuyou-consul.cn

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