【吾友コンサル】News Letter 2024/09 中国外資系企業の撤退要因とは

深セン・広東省を中心に活躍されている吾友コンサル(吾友咨询)の隔月News Letterです。

今回は、データから見た中国外資系企業の現状、また中国から撤退する要因について、加えて深圳博物館から深センの歴史について取り上げます。

中国外資系企業の現状について

吾友コンサルティング総経理  劉真(Vivian Liu)

米グローバルITソリューション企業のIBMが中国国内の研究開発部門を閉鎖し、リストラすることに関する情報がこのほど、広く注目を集めている。また、ここ二、三年間、外国企業の中国事業撤退・縮小が相次いでいるため、中国外資系企業の現状について、一時的に諸説紛々としている。真相は一体どうなっているのか?

(一)データから見た中国外資系企業の現状

中国商務部の公表したデータ(注1)によると、2024年1月から8月にかけて、中国全土で新規設立された外資系投資企業は3万6968社で、前年同期比11.5%増だった。外資利用額は前年同期の高基数の影響を受け、前年同期比31.5%減の5801億9千万元(約11兆8,794億円、1元=約20円)だったが、依然として歴史的に高い水準となっている。

日本帝国データバンクの発表した調査結果(注2)では、2024年6月時点で、中国に進出する日本企業は約1万3034社で、2022年の1万2706社と比較すると、二年間で328社の純増(新設1571社、撤退・現状不明1243社)となったものの、コロナ禍前の水準(2019年は1万3685社)には届かなかった。中国製造業の発展に伴い、中国での日系企業の主力が伝統的な製造企業から飲食、物流、小売、サービス業などの非製造企業へとシフトする傾向が現れている。

上記データは、海外資本の大規模中国撤退という言説を打ち破り、投資家が中国の変化に合わせて事業の調整・展開をしている事実を反映している。

注1:中国商務部が2024年9月14日に公布した日常ニュース

注2:帝国データバンクが発表した「日本企業の中国進出動向調査(2024)」

(二)外資系企業はなぜ中国から撤退するのか

個人的には、主な要因として次のようなものが考えられる。

1.産業の転換と市場競争の激化。中国経済は四十年の発展を経て、各地で産業モデル転換とアップグレードが加速している。また、近年、経済成長と共に自国ブランドが見直される動きもあり、技術含有量が低く、革新能力が不足している一部の外資系企業は、激しい競争環境で過去の栄光を維持しづらくなる。

2.会社運営コストの上昇。ここ十数年間、中国の工場賃貸料/土地価格、人件費コストが急速に上昇するなか、外資系企業(特に労働集約型産業)は従来のコスト優位性を失ってしまい、その経営する製品/サービスが市場の変化に順応し、明らかな競争優位性を獲得できなければ、最終的に撤退や移転を選択せざるを得なくなる。

3.コロナ後の中国経済は課題に直面している。コロナ後の中国経済は徐々に回復したものの、依然として不動産市場の低迷、地方政府の債務の重さ、一部の伝統的産業における生産能力の過剰など、様々な課題に直面している。また、世界経済の成長鈍化も中国の輸出需要に影響を与えている。

4.地政学的リスクが近年顕著に高まっている。なかなか終結しないウクライナ紛争、混迷する中東情勢、米中間の緊張関係などの不安定な国際環境下で、多国籍企業は中国市場の安定性に対し、より慎重な態度を持ち始め、一部の外資系企業は撤退や業務移転を自ら(或いはやむを得ず)選択している。

(三)魅力的であり続ける中国市場

多くの困難に直面しているにもかかわらず、中国政府は外資をさらに誘致する決意を固めている。それは、最近、中国が打ち出した一連の外資向け安定政策に表れている。外資の銀行業への投資を開放し、製造業分野の外資参入制限措置を全面的に取り消し、電気通信や医療などのサービス業の市場参入を緩和するなど、投資家の自信をさらに強化する狙いがある。

この背景の下、テスラ、アップル、NVIDIA、エクソンモービル、シーメンスなどの大手企業が中国への投資を継続的に拡大している。日本企業では、トヨタの燃料電池新工場が北京で稼働開始、パナソニックは中国14都市で同時に新規事業を進行中、ユニクロの中国店舗数が日本本土を上回るなどが挙げられる。

世界的な経営コンサルティング会社の米A.T.カーニー社が発表した2024年海外直接投資信頼指数(FDICI) によると、中国は世界ランキングで昨年の7位から3位(アメリカとカナダに次ぐ)に躍進し、新興市場だけのランキングではトップだった。これは、投資家が地政学的リスクに対する懸念を持ちながら、依然として中国市場を楽観視しており、中国は世界で最も魅力的な市場の一つであり続けることを十分に示している。

中国の四十年間の発展において、外資は極めて重要な役割を果たしてきた。海外先進技術の積極的な導入がなければ、今日の中国経済の発展は決してありえなかった。過去から進んできた経済的グローバル化の見直しが議論されている今、中国が着実に前進し続けるために、決して自分の城に閉じ籠って自己満足ばかりしてはならない。一方、市場変化に順応するために、中国の外資系企業の戦略は今後、会社ごとにずいぶん異なっていくのではないか。

<特別寄稿>

高山 直仁

日系EMS企業勤務

深セン博物館

深センの歴史は短く、1978年以来の中国の改革開放※1の歴史と重なる。1979年、前身の「宝安県」を「深セン市」に改めることからその歴史は始まる。人口わずか3万人であった小さな漁村は、1980年の経済特区の指定を契機に、常住人口1779万人を超える大都市に発展した。GDPも1979年の1.9億元から、2023年には3.46万億元に成長した。名目値のみで計算すると約18,000倍以上で、それゆえに「人類史上最速で成長する都市」とも言われる。さて、こうした深センの急速な発展を学ぶなら、深セン博物館※2へ訪れることをお勧めする。

※1改革開放

共産主義の政治体制を維持しながら市場経済の仕組みを取り入れるべく鄧小平によって導入・推進された経済政策。経済特区の設置、人民公社の解体、海外資本の導入等の政策が徐々に実施された。深センの発展は、この改革開放政策によってもたらされており、改革開放の歴史を学ぶことは深センの理解に直結する。

※2深セン博物館(公式サイトhttps://www.shenzhenmuseum.com/ ) 深セン市の中心福田区に位置。地下鉄2号線、4号線「市民中心駅」B出口より2分。開館時間は10時から18時まで。休館日は月曜日。祝祭日等はホームページで確認を。中は3階建てで広い。改革開放以外の展示まで見るなら1日がかり

深セン博物館は、深セン市福田区の政府市役所(市民中心)の一区画にあり、3階建て、敷地面積3.7万㎡と、非常に大きく、常設展には古代史、近代史、民俗等の展示もありますが、最大の展示面積を占めるのは「改革開放」の展示である。「改革開放」の展示は、時系列順に、①文化大革命期の混乱、②鄧小平の改革開放政策の決定、実施、③江沢民、胡錦涛時代における改革開放路線の継続、④現政権における深センの国家戦略上の位置付けが紹介されているが、特に文書・ジオラマ・動画等により②の鄧小平時代の展示が非常に豊富。

新中国で初めての外資(香港)企業による工場建設のためにダイナマイトで山を破壊し、海を埋め立てていく様子を写した風景、中国で初めての高層ビルとなった「国貿ビル」の建設風景(3日で1階層を建設し、このスピードが「深セン速度」の由来とも言われている)、他地域から来た労働者が深センの工場で働く風景、鄧小平が第一次南巡講話で宿泊したホテル等が、現物、写真、動画、ジオラマで紹介され非常に見ごたえがある。当時の政府文書等も豊富に展示されている。見学料は無料で、パネルでは、大まかな所は、英語表記もあり、深センの歴史を学ぶにはまさしくもってこいの場所である。

南巡講話の風景(鄧小平のモニュメント)

直近のトピックス

中国の国家発展改革委員会、商務部は9月6日、外資企業の投資を制限・禁止する分野を示した「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2024年版)」を公布した。2024年11月1日から施行される。

今回のリストでは全29項目となり、製造業についてネガティブリスト上の参入規制は全面的に撤廃されたことになる。

ここ数年、中国は外資参入規制を継続的に緩和し、2017年から2021年までの5年連続で全国及び自由貿易試験区の外資参入ネガティブリストを改訂し、二つのリストの制限措置をそれぞれ93件、122件から31件、27件へと縮小し、製造業、鉱業、農業、金融業などの分野において、一連の重大な開放措置を打ち出した。また、外国投資奨励産業リストの改訂も現在検討中で、サービス業における奨励項目を引き続き増やし、より多くの外国投資家がサービス業へ投資するよう誘導する方針である。

吾友コンサルティングについて

吾友コンサルティングは中国で活躍する日本企業を対象に税務・財務・ビジネスのコンサルティングサービスを提供している会社です。みなさんの日々の課題や悩みをしっかり伺い、町医者のように親身になって的確なアドバイスを行っています。

当社の起業理念は、中国で活動する海外企業を中心にビジネスの成長を応援することです。日頃コンサルティングを通じて、多くのお客様がビジネスの小さな成功に止まらず、中国という国に向き合い、その特性などを深く理解した上でタイトに繋がろうとする姿勢を感じています。深い理解あればこそ、より大きな成功に結び付いていると思います。

皆さまへの更なる応援のために、当社総経理、Vivian Liuが業務を通じて感じたり、考えたことを記し、発信させていただくことにしました。当面、隔月です。

テーマに関し、文化・社会的な内容に加えて、適宜ビジネスの成功や失敗からの学びなど実践的な内容もカバーしていくつもりです。

また、当社と提携している会社、当社のお客様または知り合いなどにも寄稿をいただいております。

ぜひよろしくお願いいたします。

Vivian Liu 連絡先:

vivian.liu@wuyou-consul.cn

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事