世界中に拠点を置く総合法律事務所で、深圳市にジャパンデスクを設置した「大成律師事務所」(DENTONS)からリーガルニュースをお届けします。
海外で働かれている方々の中には、日本の土地相続の問題を抱えることがあります。今回は日本で去年改正された不動産土地の相続登記義務化について取り上げます。
特に日本で相続予定の土地を所有されている方はぜひ知っておきたい情報です。
目次
1 はじめに
当職が年末年始に帰省した際に、父との会話でわかったことなのですが、祖父の持ち家は祖父が他界した後、叔母が相続したと聞いていたのですが、まだ土地と建物の所有権の登記名義人は祖父のままになっており、遺産分割に応じた相続登記はしていないということでした。調べたところ、日本では九州1個分くらいの土地の相続登記がなされておらず、所有者不明の土地が多くあり、それが日本の不動産の利用の停滞を招いているということです。
これによって、例えば次のような問題が生じることが考えられます。
・ 公共事業や土地利用計画の遅延
・ 相続人間でのトラブル
・ 土地管理の放棄や荒廃
従前、日本では相続登記の申請が義務とされておらず、相続人が申請を懈怠しても不利益を被ることが少なく、相続をした土地の価値が低く、売却も困難である場合には、手間や費用をかけてまで登記申請をしたくないと考える相続人が多かったため、現状のような問題が生じています。
そこで、これらの問題を解消するために、2021年に成立した「民法等の一部を改正する法律」により、相続登記が2024年4月1日から義務化されました。
2 相続登記義務化の具体的な内容
義務の対象
法定相続や遺言、遺産分割によって不動産を相続した人が対象です。
※相続放棄をした人は対象になりません。
相続が開始した場合、原則としては相続人が法定相続分の割合に応じて相続不動産を共有することになりますので、その割合での相続登記をします。また、被相続人による遺言のある場合や、相続開始後遺産分割が成立した場合は、その内容に応じて、相続登記をすることになります。
期限
自己のために相続の開始があったことを知った日又は遺産分割の日から3年以内に相続登記を行う必要があります。
必要な手続き
1 遺言のある場合は、遺言の内容に従って相続登記をします。
2 遺言の無い場合で、相続人間で、遺産分割がまとまったときは、遺産分割の内容に従って登記をします。
3 遺産分割がまとまらない場合は、法定相続分での相続登記をするべきです。
4 どうしても相続登記ができない場合は、後述の相続人申告登記をすることを検討できます。
3 罰則
正当な理由がないのに相続登記を怠った場合には、10万円以下の過料に処されます(不動産登記法164条1項)。
(注)過料を免れることができる正当な理由には、次のようなものがあります。
①数次に相続が発生して相続人が多数に上り、戸籍謄本などの必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合
②遺言の有効性や遺産の範囲などが相続人の間で争われており、相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
③相続登記などの申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
④DV等によりその生命心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって非難を余儀なくされている場合
⑤経済的に困窮しており相続登記申請にかかる費用を負担する能力がない場合
4 相続人申告登記について
遺産分割協議が難航しているなどして、相続の開始を知った日から3年以内に相続登記をできない場合には、相続人申告登記という簡易的な手続きを履践することにより、罰則を回避することもできます。
相続人申告登記とは、相続登記などの申請義務を負う者が、登記官に対して、対象となる不動産を個別に特定したうえで、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその相続人であり旨の申し出をした場合に、登記官が職権で所有権の登記に付記するものです。この相続人申告登記を履践することによって、申請義務を履行したものとみなされます。
ただし、相続人申告登記の性質は、あくまで相続が開始したこと及びその法定相続人とみられる者を報告的に公示するものにすぎませんので、相続登記とは全く異なるものです。後日、相続人が不動産を処分する場合などには、相続人への相続登記を経たうえで、買主たる第三者に対する所有権移転登記を経由する必要があります。
5 相続登記の申請義務(まとめ表)
相続登記の申請義務について、遺言のケースと遺産分割のケース(遺言なし)とで相続登記の申請義務についてまとめ表を作成しました。
☆遺言のケース
遺言の有無 | 申請義務 | その他 |
有 | 相続認識後3年以内の遺言による相続登記 | 遺言の内容に従った登記がされた場合に、その後に相続人間で相続分の譲渡や売買がされても、追加的申請義務はない |
相続認識後3年以内の相続人申告登記 | 遺言の発見前に相続人申告登記がされていれば、重ねて登記を要しない。 | |
無 | 相続認識後3年以内の法定相続分による登記 | 遺産分割可(次の表へ) |
相続認識後3年以内の相続人申告登記 | 遺産分割可(次の表へ) |
※遺言で特定財産承継遺言や相続分の指定があった場合はこれに反する遺産分割をすることはできません。
★遺産分割のケース(遺言なし)
遺産分割成立の有無 | 相続登記・相続人申告登記の有無 | 申請義務 |
3年以内不成立 | ナシ | 相続認識後3年以内に法定相続分による相続登記又は相続人申告登記 ※3年経過後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割成立後3年以内に遺産分割による登記をしなければならない。 |
相続登記アリ | ※3年経過後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割成立後3年以内に遺産分割による登記をしなければならない。 | |
相続人申告登記アリ | ※3年経過後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割成立後3年以内に遺産分割による登記をしなければならない。 | |
3年以内成立 | ナシ | ㋐認識後3年以内の相続登記 ㋑遺産分割成立後3年以内の遺産分割による相続登記 ※㋑をすれば㋐は不要 ※相続人申告登記をすることはできない |
相続登記アリ | 遺産分割成立後3年以内の遺産分割による登記 | |
相続人申告登記アリ | 遺産分割成立後3年以内の遺産分割による相続登記 | |
※相続人申告登記の申出後又は法定相続分による相続登記がされた後に遺産分割がされた場合には、当該遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した相続人のみが当該遺産分割の結果を踏まえて所有権の移転の登記の申請義務を負う。 |
大成律師事務所(DENTONS)について
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