
深セン・広東省を中心に活躍されている吾友コンサル(吾友咨询)の隔月News Letterです。
今回は、中国で興収100億元を突破した「ナタ2」に見られる「職人魂」について、また大湾区企業の日本進出ブームについて取り上げられています。
直近のトピックスでは、日本の消費税に相当する「増値税」が紹介されています。
目次
アニメ映画『ナタ2』興収100億元突破——「職人魂」が紡ぎ出した新たな商業神話
吾友コンサルティング総経理 劉真(Vivian Liu)
中国に「十年寒窓無人問、一挙成名天下知」という故事がある。世に知られず十年の修業を重ね、一瞬にして名を天下に轟かせるという意味だ。アニメ映画『ナタ』(哪吒)シリーズの監督・餃子(本名:楊宇、1980年代生まれ)は、まさにこの言葉を体現する人生を歩んできた。
2019年、餃子監督が5年の歳月をかけて完成させた『ナタ1』が50億3500万元の興収を記録し、中国映画市場の頂点に立った。そして5年後、『ナタ2』は躍動感あふれるストーリー、深みを増したキャラクター、圧倒的な映像美で新たな伝説を打ち立て、世界から熱視線を浴びている。2月22日時点で累計興収130億元を突破し、暫定で世界興行ランキング8位に浮上(1位は2009年公開『アバター』の212億元)。餃子監督は中国アニメ映画界初の興収100億元突破監督の称号を手にした。
『ナタ1』で観客に衝撃を与えた「運命は天に委ねず、自ら切り拓く」という台詞は、監督自身の半生と重なる。四川省泸州市出身の彼は、医学部進学という家族の期待を背負い四川大学華西薬学院に入学した。24歳で父を亡くし家計が逼迫する中、医学の道を捨ててアニメ制作の独学に没頭。3年もの間、母親のわずかな退職金に頼る生活を送りながら技術を磨き続けた。2008年発表の短編アニメ『打、打个大西瓜』が国際的に30以上の賞を受賞したことが転機となり、後の『ナタ』シリーズ誕生へとつながった。

『ナタ2』の快挙を中国人として誇りに思う一方、私の心を強く打ったのは餃子監督の類い稀なる執念だ。彼の成功は「東洋的職人魂の結晶」と言えるだろう。興収100億元を突破した今も「5年かけるのが最低ライン」と語り、「アニメは一生の仕事。手っ取り早い金儲けではない」と断言する。この情熱こそが商業奇跡を生む原動力だ。餃子監督に限らず、東西を問わず「職人魂」が偉業を成し遂げてきた事例は多い。

■宮崎駿(日本)
手描きアニメに生涯を捧げた巨匠。『トトロ』『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』など全作品で自ら絵コンテを描き、原画チェックを徹底する姿勢が、スタジオジブリを世界トップのアニメスタジオに育て上げた。

■スティーブ・ジョブズ(米国)
アップル再建の原動力となった完璧主義。「0.1ミリの狂いも許さない」という哲学がiPhoneの革命的デザインを生み、企業価値100兆円超の復活を実現させた。

■J・K・ローリング(英国)
生活保護を受けながら5年間カフェで執筆を続けた『ハリー・ポッター』。時間をかけて物語を熟成させる「スロークリエイション」が、世界5億部のベストセラーを誕生させた。

情報過多でスピード重視の現代社会において、職人精神は希代の宝物となっている。技術革新の波に翻弄される無力感に対し、深い没入こそが心の拠り所となる。『ナタ2』の成功は「魂を込めた作品」への観客の回答だ。速さではなく「時の層に精神を刻む」営みが真の傑作を生む。稲盛和夫が『生き方』で説く通り、「美しい心を持ち、夢を抱き、懸命に誰にも負けない努力を重ねる人に、神はあたかも行く先を照らす松明を与えるかのように、「知恵の蔵」から一筋の光明を授けてくれるのではないでしょうか」。
<特別寄稿>
黄 旭
粤港澳大湾区中日企業合作聯盟 理事
深セン市対外経済貿易と投資発展促進会 副会長
深セン市中日経済文化交流促進会 秘書長

大湾区企業の日本進出ブームに思うこと
毎年の年末年始になると、広東省に拠点を置く日系経済団体や金融機関を訪問し、新年の挨拶を交わしながら、中日企業協力の情報交換を行い、今後の展望を語り合うのが恒例となっている。今年も長年の提携機関をいくつか訪れたが、例年とは異なり、中国企業の対日進出が話題になっていた。
長年日本への対中投資誘致に携わってきた者として、近年の大湾区企業の日本進出ブームには深い感慨を覚える。改革開放政策が始まって40年、経済特区の投資誘致事業が辿った数々の段階を振り返り、今や「誘致」から「進出」へと転換した大湾区の姿を見るにつけ、特区の開放政策と優れたビジネス環境に育まれた地場産業の逞しい成長に心打たれる。

1980年代初頭、私が深圳に赴任した当時、改革開放の最前線であった同地では「三来一補」方式(外国投資者が原材料などを提供し、国内の工場で製品に加工してから輸出する形態)による香港・マカオ・台湾資本の誘致が焦点だった。当時の工場は金型部品や簡易機械、プラスチック製品、そして衣類や食品工場などが中心であった。このような形態の工場が盛んになったのは次のいくつかの理由が挙げられる。外商直接投資を誘致でき、貿易と生産が一体化する。中国側が役務のみを提供し、リスクが限られる。輸入と輸出が結びつく。外商が設備や原材料、サンプルを提供し、製品の100%外販を担当し、地元が土地と工場、労働力を提供する。双方が独自で記帳し、加工賃で決済するという仕組みだった。この時代、大湾区には目立った地場製造業は存在しなかった。
1980年代から90年代にかけて、南頭の蛇口、福田の皇冠工業団地、宝安の大洋工業団地、そして現在の龍崗区の布吉南嶺村、観瀾の桂花村などは、遠近に名を轟かせた日本工業団地であり、多くの日系企業が集まっていた。当時の香港・マカオ・台湾の企業に比べ、生産技術や経営管理の面で明らかに優れていた。初期の三洋、中日龍、山田電器、エプソン、キャノン、リコー、日立などの大手企業は、夢を抱えて深圳に来た出稼ぎ労働者にとって理想的な就職先であった。しかしこの時期も、大湾区発の有力製造業はまだ芽生えていなかった。
90年代後半、改革開放の深化と投資環境の改善により、ブラザー工業、村田、オムロン、旭硝子、日東電工などを代表とする、電子・電機一体化製造において先端技術を持つ数々の優秀日系企業が大湾区に本格進出。これにより、中日合弁企業や合作企業の設立が促進され、地場の製造業企業の発展も大きく後押しされた。大湾区では、中興通訊(ZTE)、華為(Huawei)、比亜迪(BYD)、美的(Midea)、格力(Gree)、TCLなどの地場企業が台頭し始めた。とはいえ、当時、これらの地場企業はまだ内部の強化に力を注いでおり、国内市場開拓が主眼で、海外進出まで視野に入ってはいなかった。
大湾区企業を含む中国企業の本格的な対日投資が始まったのはここ10年ほどだが、投資規模は年々急速に拡大している。ジェトロの統計によると、過去10年間で中国本土企業の対日直接投資額は17.5倍に増加。特に大湾区企業はその重要な一翼を担い、投資規模も急増している。一部のハイテク企業が先端技術と資金力を武器に日本で活発なM&Aを展開している。そのうち、BYDが荻原製作所に出資した事例が象徴的である。
現段階における大湾区企業の日本進出は次のような特徴が見られる。まずは多様な業種展開。家電、液晶部品、電子製品から携帯、EV、太陽光発電、さらにはゲーム、越境EC、ドローン、バイオ医薬品、遺伝子検査、AI応用までの新興分野において大湾区企業は積極的に日本市場を開拓し、先進技術とビジネスモデルを活用し、日本企業との協力と競争を展開している。次は柔軟な協業形態。技術・ブランド・市場取得を目的とした日系企業の買収(例えば、資金問題で研究開発が継続できなくなった日本企業に出資)、合弁会社設立による市場共同開拓、業務提携による資源共有など多角的アプローチが見られる。

大湾区企業の日本進出に関する今後の展望について、私は次のように考えている。まずは技術協力の将来性が広い。日本は半導体、ロボット、バイオテクノロジー、環境技術などの分野で世界をリードする先進技術を持っている。大湾区企業は、日本企業とこれらの分野での提携強化やM&Aを通して、自身の技術レベルを高め、産業のアップグレードを実現できる。また、5Gや人工知能(AI)などの分野では大湾区企業の優位性が日本企業と相互補完的に作用し、グローバル市場の共同開拓が可能である。次に、消費市場の潜在力が大きい。コスパ製品と新興ブランドに対する日本中産階級の人気の高まりに伴い、大湾区企業は製品の革新とコスパ優位性を活かし、日本消費市場をさらに開拓できる。例えば、スマート家電や個性化電子商品などをEC経由で展開し、日本消費者の生活の質と個性化に対するニーズを満たす。
今後、大湾区企業の対日進出がさらに活発化するにつれ、中日企業間で資金・技術・市場の最適配分が進み、真のウィンウィン関係が構築されていくであろう。
直近のトピックス
2024年12月に中国では増値税法が可決され、2026年1月1日から正式に実施される。
増値税は日本の消費税に相当する税目で、中国の全体税収の約38%を占め、中国の最大の税収源である。これまでの増値税は「暫行条例」及びそれに関連する政策に基づいて運用されていたが、経済の発展に伴い、税金の徴収・納付の制度化を促進するために、増値税を法制化し正式に立法された。
基本的に増値税法は「暫行条例」の内容を踏襲しているが、「視同販売」の範囲縮小、「国内で発生した取引」の判断基準明確化、控除不可仕入税額の規定調整、仕入増値税還付の選択権、税務機関の部門間連携などの変化点も見られる。
吾友コンサルティングについて
吾友コンサルティングは中国で活躍する日本企業を対象に税務・財務・ビジネスのコンサルティングサービスを提供している会社です。みなさんの日々の課題や悩みをしっかり伺い、町医者のように親身になって的確なアドバイスを行っています。
当社の起業理念は、中国で活動する海外企業を中心にビジネスの成長を応援することです。日頃コンサルティングを通じて、多くのお客様がビジネスの小さな成功に止まらず、中国という国に向き合い、その特性などを深く理解した上でタイトに繋がろうとする姿勢を感じています。深い理解あればこそ、より大きな成功に結び付いていると思います。
皆さまへの更なる応援のために、当社総経理、Vivian Liuが業務を通じて感じたり、考えたことを記し、発信させていただくことにしました。当面、隔月です。
テーマに関し、文化・社会的な内容に加えて、適宜ビジネスの成功や失敗からの学びなど実践的な内容もカバーしていくつもりです。
また、当社と提携している会社、当社のお客様または知り合いなどにも寄稿をいただいております。
ぜひよろしくお願いいたします。
Vivian Liu 連絡先:
