
7月1日より、香港市民が車で簡単に広東省に移動できる「港車北上」という取り決めが正式に開始されました。
これまで香港の車両が中国本土に入るには、自動車本体よりも高値で取引されている「ダブルナンバー」が必要でしたが、これにより大湾区の相互接続がより一層前進しました。一方で課題も指摘されています。
目次
まずは港珠澳大橋から実現
香港居民が観光、ビジネス、親戚の訪問などのために車で広東省に移動可能となる「港車北上」スキームは、香港と珠海をつなぐ世界最長の橋「港珠澳大橋」でまず実現されました。利用者からは「アクセルを踏めば広東省に行けるようになった」と概ね好評です。
香港では、1,110平方キロメートルほどの総面積の中に730万人以上が居住していますが、香港の公道走行距離は2,223キロメートル。つまり1人当たりの公道走行距離は0.3メートル未満となります。一方で広東省の総面積は17万9,800平方キロメートルで、今回の「港車北上」を活用して香港の車両が広東省でドライブできる距離は約160倍に拡大したことになります。
2022年末までに、広東省の高速道路の総走行距離は1万1,211キロメートルに達し、9年連続で全国1位となりました。狭い香港の道路事情を考えると、香港のドライバーにとっては開放感も感じられそうです。
そして、香港と広東省は同じ文化、同じ言語(広東語)を共有しています。2017年から2019年にかけて、香港居民は主に公共交通機関を利用して、1日平均約43万8,400回、年間約1億6,000万回も本土と往復を行っていたそうです。広東省内に故郷を持つ香港居民も少なくないため、車で気軽に往来できる今回の取り決めは香港と広東省はより一層身近にさせるものとなります。
今回の「港車北上」に合わせて、検問所では「一站式」(ワンストップ)車両通関システムをアップグレードし、車両とドライバーの書類、指紋、顔情報などを読み取るようにしたことで、車両交通の効率を30%近く向上させたとのこと。

申請方法
広東省に入る自家用車は「封閉道路通行許可證」を申請する必要があります。 「港車北上」特設オンライン申請ページが用意されており、利用者はここから申請書と関連書類を提出して、両政府(香港特別行政区政府運輸署/中国本土当局)からの審査を受けます。手数料は年間540香港ドル(または1カ月45香港ドル)です。当スキームにより中国本土に入境した人は30日間(年間では合計180日間)本土に滞在し続けることができます。
これまで、1万6,000人以上の香港居民が第1次募集に応募登録し、3回の抽選の結果合計約7,700人が当選したようで、需要の高さがうかがえます。香港で登録済みの車両は82万台と言われていますが、そのうち45万台が今回の取り決めの対象となり、恩恵を受けることができるのだそう。
深圳市では駐車場のナンバープレート自動識別をアップグレード中
広東省のナンバープレートは「粤A〜Z」で始まりますが、香港やマカオのナンバーは異なり、識別がより難しくなります。そのためアルゴリズムのアップグレードが必要です。
現在のところ、深圳市内の口岸ではこの「港車北上」スキームを利用した車両の入境はできませんが、港珠澳大橋から深圳市内に来る車両のために深圳市交通部門は市内駐車場のシステムをアップグレードして、対象車両のナンバープレートの自動識別対応を行っています。
中国のスマート駐車場はナンバープレートの自動識別を行なって決済も行えるためこの対応が急務となりますが、現在までに、深圳机场、深圳湾公园、福田中心城、洪湖公园の23の駐車場と1万台以上の駐車スペースの改造とアップグレードが完了したようです。
今後交通部門は、福田区、南山区などの香港・マカオの人々の活動が集中している地域や、香港・マカオからの車両の駐車場需要が大きい商業、交通駅、病院、住宅、オフィスビルなどのシーンを重点的に、7月末までに10以上、年末までに100以上の駐車場のシステム改修を完了する予定なのだそう。
運転環境、法規制などの課題も
広東省と香港では、運転環境や法規制、道路設計や車両の進行方向が異なります。
そのため、「港車北上」で中国本土に入る運転者は、本土での運転に十分な経験、知識、能力があるかどうかにも注意し、現地の法規を遵守し、出発前にGPSの設定をして地図や予定ルートなどの情報を集めることも勧められています。
香港とマカオは、イギリスや日本と同様に右ハンドル・左側通行ですが、中国本土は逆となります。ちなみにイギリスや日本では左ハンドル車でも走行できますが、香港では(ダブルナンバーを保持しない限り)左ハンドル車の走行は禁止されているのだそう。

充電規格の異なるEV車両は要注意
そしてもう一つ大きな課題が。
現在、香港のEVの多くは欧州規格(IEC)の充電プラグを使用しています。一方で中国本土のEVは中国国家規格(GB)を使用しています。香港で購入したEVは、中国本土のショッピングモールや駐車場の充電ステーション、テスラのV2/V3スーパーチャージャーでは直接充電できません。
香港ではテスラ車所有率が高いので、これはネックになりそうですが、現在のところ、中国本土で香港のテスラ車を充電するには3つの選択肢があるようです。
1) テスラ公式GB ACアダプター(中国本土用)を購入
テスラ・モデル3およびモデルYのオーナーは、公式の「GB/ACアダプター」(3200香港ドル)を購入することで、中国本土の充電ステーションでGB/ACアダプターを介して充電ができるのだそう。
2)テスラ公式GB DCアダプター(中国本土向け)を購入
テスラ・モデルSとモデルXのオーナー向けには、公式の「GB/DCアダプター」(3200香港ドル)が用意されています。これにより、中国本土でDC急速充電ステーションとTeslaV2/V3スーパーチャージャーを使用することが可能になるとのこと。しかし現在のところ当アダプター自体が入手困難のようです。
3) サードパーティー製 充電アダプターを購入
サードパーティー製の「GB ACアダプター」「GB DCアダプター」を購入するという手段も残されています。 価格は公式充電アダプターの1/4程度で、500-1000香港ドル程度で購入可能のようです。しかし、中国本土および国際規格に適合しているのか、安全で信頼性があるかを確認する必要があります。
KILOWATT:【港車北上充電】Tesla 車必須買AC/GB轉插?|珠海充電篇
運輸署はEV車両向けガイダンスを発行
香港運輸署では、「港車北上」に参加するEV所有者のため、「電気自動車充電アダプターの使用に関するガイダンス・ノート」を発行しました。以下のウェブページ(https://www.td.gov.hk/filemanager/tc/content_4808/item%204.31.pdf)からダウンロード可能です。
香港のガソリン価格は中国本土の倍近く
一方で、香港のガソリン車にとっては中国本土のガソリン価格がとても安く、香港の価格の半分近くなのだそう。そのため、香港に戻る前に給油することが勧められています。
今回の「港車北上」の取り決めは、現在のところ深圳側の口岸は未対応ですが、需要の高さから申請枠を増やしていく方向にあるようなので、越境旅客車/貨物輸送の通関に適した莲塘口岸(蓮塘口岸)や深圳湾口岸などもいずれ対応するかもしれません。
これにより、深圳市内でもだんだんと香港ナンバーの車が見られるようになりそうですね。
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