2024年の中国は、日本を含む30カ国以上の短期滞在ビザ免除措置に加え、他の多くの国に対してもトランジットビザ免除適用期間が240時間(10日間)に拡大するなど、外国人旅行者の門戸が広がった年でした。
外国人旅行者受け入れ拡大に伴い、深セン地下鉄はすべての駅で海外発行のクレジットカード(海外カード)で切符購入が可能となり、また決済可能なショッピングモールも拡大中です。
加えて、深圳市は他都市に先駆けて、残高や支払い用QRコードを表示できるインクスクリーン内蔵の「デジタル人民元ハードウォレット」の運用を開始しました。香港からの旅行者にも便利なサービスです。
目次
深圳市は外国人向け決済サービスの改善に取り組む
2024年6月6日、深圳市は「深圳打造一流国际化营商环境·外籍人士便利化服务全媒体指引」(深センの一流国際ビジネス環境の構築と外国人向けサービス促進のための全メディアガイドライン)を公表。当ガイドラインは、より多くの海外投資家や国際的な人材、世界からの訪問者が深センでの生活や仕事によりよく溶け込めるようにすることを目的としています。
「大额刷卡、小额扫码、现金兜底」
人民银行深圳市分行、外汇管理局深圳市分局は「大额刷卡、小额扫码、现金兜底」(高額はカードで、少額はQRコード決済で、現金はもしもの時に)という方針を打ち出しており、「カード決済+現金+デジタル人民元+モバイル決済」を組み合わせることで、外国人が深圳市内でスムーズに決済ができるように支援しています。
「卡、码、币、包」
中国人民銀行深圳支店の関係責任者は、「卡、码、币、包」の4つの分野に焦点を当て、中国国内の外国人向け決済サービスを改善中だと述べています。5月末現在、深センには海外カード(VISA、Master Card、American Express、JCB、Diners Club)対応POS端末が4万9千台近くあり、海外カード受入可能な主要加盟店の割合は96%に達しています。深センを訪れる人々の最初の訪問地となる深圳宝安空港、福田高速鉄道駅、各口岸周辺の主要商圏、外資系ホテルなどでは、海外カード対応POS機がほぼ完全に普及しています。
「卡」:海外カード対応エリア拡大
深圳市文化广电旅游体育局は中国人民銀行深圳支店と共同で、深圳市内の主要な文化・観光施設に168台の海外カード対応POS機と34ヶ所の外貨両替所(外貨ATM)を追加しています。
深圳市内の免税店、外資系ホテル、主要ショッピングモール、娯楽施設など外国人旅行者の利用が多い施設では海外カード対応POS端末導入に積極的で、特にマクドナルドは現在最も多くの種類の海外カードを受け入れている飲食店の一つとして知られています。基本的に三つ星ホテルは海外カード対応POS機を導入し、銀行と連携して外貨両替のセルフサービス機器も設置しているところが多いようです。海外カード対応のショッピングモールも拡大しており、特にCOCOPARK、海上世界、华侨城创意园、深业上城、深圳湾万象城、万象天地、欢乐港湾、深圳北宾果空间、上河坊などはモール内の海外カード対応加盟店を増やしています。
「码」:QRコード決済、手数料はプラットフォーム側が負担
QRコード決済の分野においては、少額決済ソリューション「外卡内绑」(海外カード内結合)を提供開始。これは外国人が中国国内の決済プラットフォームを使用して海外カードを直接連携させるというもので、ユーザーは簡単な情報(カード番号、有効期限、クレジットカード認証コード)を入力するだけで直接決済を結合できます。
これ以前は、氏名、性別、国籍、職業、住所または勤務先の住所、有効な連絡方法(電話番号/メールアドレス)、身分証明書(パスポートなど)、身分証明書番号、身分証明書の有効期間など、9つの要素を提示する必要がありました。関連情報が書類のコピーの形で提示された場合、カードはバックエンドによる手作業での審査後に紐付けされていました。
注目できるのは手数料。海外カードは海外事務手数料がかかるため、加盟店としてはあまり使いたくありません。そこで、WeChat Pay(微信支付)の運営会社であるTenpay(财付通)とICBC深圳支店は海外カードの受け入れに伴うコストを負担しました。この補助金はこれまで1年間継続して投入されています。また、Tenpayは200元以下の海外カード経由の取引手数料も免除しています。現在のところ、Tenpayの海外カード経由の取引の90%近くが200元以下の取引なのだそう。
一度の取引限度額も引き上げられます。2023年のサービス開始直後は、海外カード経由による一度の取引限度額は1,000米ドルでしたが、3月1日に中国人民銀行はアリペイやTenpayなどの主要な決済機関に対し、中国に滞在する外国人のモバイル決済における1回当たりの取引限度額を1,000米ドルから5,000米ドルに、また年間累計取引限度額を1万米ドルから5万米ドルに引き上げるよう指導しました。
2024年末の時点で取引限度額が5,000米ドルまで引き上げられているかは不明ですが、いずれにしても対応されていくと思われます。5,000米ドルは日本円で80万円近くなので大半の決済はこれで十分ですね。
プラットフォームは「小额关注便利,大额关注风险」(少額決済は利便性を重視し、高額決済はリスクを重視する)というスタンスのもと導入されたこのソリューション。WeChat Payの海外カードサービスは今後も継続的にアップグレードを行なっていくのだそう。
「币」:外貨両替場所の拡大
前述の記事のように、WeChatやAlipayに海外のクレジットカードを紐付けて電子決済を行うことは可能ですが、中国に馴染みがなく旅行も乗り継ぎのみで決済用アプリをダウンロードするほどではない、と考えている外国人にとっては人民元を現金で持ちたいようです。
深圳では市内1,600以上の銀行窓口で外貨両替が可能となり、約4,000台のATMで海外のカードによる人民元の引き出しが可能となりました。最近は電子マネーの普及に伴い現金拒否の店舗が出現していますが、現金しか持たない外国人観光客のために深圳市は「現金拒否の是正措置」も実施しているのだそう。
「包」:デジタル人民元ハードウォレットの登場
11月7日、第十八届深圳国际金融博览会にて「数币硬钱包」(数字人民币可视硬钱包/デジタル人民元ハードウォレット)が初公開されました。この製品はカード型で、内蔵のインクスクリーンによって残高や支払い用のQRコードを動的に表示します。カードにはON/OFFボタンがあり、このボタンを押すことで残高、取引額、QRコードなどの情報を切り替えて表示することができるようです。
運営機関の窓口またはオンラインで申請後、モバイルアプリ「数字人民币」(e-CNY)を使ってカードと紐付けて利用できるようになるようです。
このカードを決済端末にタッチ、もしくはQRコードを表示することで、商店、タクシー、屋台などでスムーズな決済ができます。しかもユーザーの個人情報をを登録することなく発行できるためプライバシー保護にも優れており、モバイル決済の利用に制約がある高齢者や学生、また外国人などにとって画期的な決済手段として期待されています。
現在、深圳市内の空港や口岸などの主要エリアには34台の「数币硬钱包」自動発行機が設置されており、これまでに3万枚発行されています。また、3万6千以上の決済端末機器と100以上のバス路線が対応しています。
深圳のすべての地下鉄駅で海外クレジットカードでの支払いが可能
深圳地下鉄は市内のすべての駅でスマートPOS端末を運用開始。合計6種類(VISA、マスターカード、ディスカバーカード、アメリカン・エクスプレス、ダイナースクラブ、JCB)の海外カードに対応しています。
また、デジタル人民元のチケット購入にも対応しており、海外からの乗客にとってよりスムーズな支払い体験を提供しています。2024年10月10日現在、600件以上の海外カード取引を処理しています。
外国人決済可能エリアは順次拡大中
11月の時点で、深圳市の約39,000の加盟店が海外カード決済に対応しており、これは2024年初と比較して36%の増加となります。上半期は49万件(前年同期比93%増)の海外カード決済が行われ、その取引額は12億元超(前年同期比68%増)となりました。
深圳市は今後、海外カードや「数币硬钱包」の受け入れ範囲をさらに広げていく予定です。重点エリアにATMや自動両替機を増設し、高速鉄道駅や地下鉄駅などの交通拠点、および病院や文化・観光施設などの重点エリアにおける支払いサービスの改善に向けた取り組みも行われます。
Source:
广东粤港澳大湾区研究院:金融丨便利境外人士支付,深圳重点商户可受理外卡率升至96%
ShenzhenDaily:Overseas visitor experiences smooth payments in SZ 境外来华支付无忧